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著作権にまつわる一断章
  (1) 著作権主義者は、無料で配付する目的で行う複製や賃借といった著作権侵害を行う者が、そうした行為の拡大によって企業が財務的に弱体化し、その結果として虚構作品の供給が(一般的に言えば、量的にも、質的にも)少なくなるという結末を受容しさえしていれば、彼をその論点で責めることはできない。
   (a) 著作権主義者は、著作権侵害によって虚構作品が質的に落ちるということを論証する必要がある。
   (b) 著作権主義者は、虚構作品の質と言う場合において採用されている質の比較方法は絶対確実に正しいということを示す必要がある。


  (2) (1)のような著作権侵害がまったくなければ、その分が単純に企業の利益になるという考えは誤っている。購入しないという選択肢もあるのである。実際に可処分所得は有限であるため、無料賃借ができないならば、買い控えるという選択をすることは日常茶飯事である。


  (3) 著作権なるものが近代文明のなかで生まれた概念である可能性を検討する必要がある。その場合、現在においてもそうした文脈=背景を変化させないままでいることが正しいということを論証しない限り、著作権概念の保持はなし得ない。


  (4) 著作権主義者が誤っている点は、著作権概念の擁護に際して、何らかの枠組みを無批判に前提していること、ならびに「自分たちが正しく、批判対象が誤っているから、自分たちはその批判対象を攻撃しなければならない、あるいは少なくとも攻撃してもよい」と飛躍することである。たとえ相手が誤っていたとしても、そのことのみから直ちに対象を攻撃する必要性があるとか、攻撃してもよいとかいう判断を導き出せるものではない。


  (5) 著作権侵害派が誤っている点は、たとえばアニメの静止画を公開しているウェブサイトやウェブログの作成者に見られる、「われわれの行為はある虚構作品やその制作会社の活況に一役買うことになるから正しい」という論点すり替えを行うことである。たとえそれが事実であったとしても、なぜそれを行うことが正しいかという問いに答えたことにはなっていない。

更新日 2008年7月25日
作成日 2006年10月--日



関連項目

A 懐疑論とその限界
A 論理の重要性についての1節
B 実践上の矛盾を巡って
C 虚構作品ノート